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定年退職日の選択 、満60歳の誕生日と満60歳に達した日の違いを社労士が解説

満60歳とは、多くの会社で定めている定年年齢。ですが、定年年齢60歳の規定にも様々なパターンがあり、正しい知識をもっていなければ、特に賞与と退職金で労働トラブルになる可能性があります。この記事では、従業員数30人以下の中小企業を主なクライアントとしている大阪の社労士が、定年を就業規則に定める際のポイントについて解説します。

■「満60歳」の真実と「定年退職日」の選択

令和4年就労条件総合調査(厚生労働省)によると、定年を定めている企業の内、60歳としている割合は72.3%。平成17年の調査では91.1%と比較すると、20%近く減少しています。それだけ定年年齢の引き上げが進んでいるということになります。とはいえ、まだ大半の企業は定年を60歳と設定しています。
ここでは、定年年齢満60歳の持つ意味合いについて解説します。

定年65歳は義務化されたのか?

このところ、中小企業の経営者や人事担当者と話をすると、「いよいよ定年65歳義務化ですね?」という話題になることが多くなりました。
ネットの情報でも、「2025年4月から定年65歳義務化」という記事があり、そのように思っている方も多いようです。

ですが、それは正しくありません。
高齢者雇用安定法において、65歳まで次のいずれかの方法で雇用確保が義務付けられています。

①定年年齢を65歳に引き上げ
②希望者全員を65歳まで(定年退職後)継続雇用
③定年制の廃止


希望者全員を65歳まで(定年退職後)継続雇用することでもいいので、65歳定年義務化というわけではありません。

実は、この雇用確保措置がスタートしたのは平成26年4月。いきなり65歳までを義務とするのではなく、経過措置として61歳、62歳と1歳ずつ引き上げる期間を設けていました。その経過措置が2025年3月31日で終了し、2025年4月からは上記のいずれかで65歳まで雇用確保することが義務化されるということです。

まだ当面は、定年60歳、その後65歳まで継続雇用すれば問題ありません。

60歳の定義:「満60歳」について

中小企業の経営者の皆様、従業員の「定年退職日」の選択は一見難解かもしれません。中でも、「満60歳」という表現の理解は不可欠です。この「満60歳」は、実は「60歳の誕生日の前日」を指します。つまり、「満60歳に達した日」と「60歳の誕生日」は別物であり、これを理解しないと、就業規則の中で齟齬が生じる可能性があります。

定年退職日とは何か?

「定年退職日」は、従業員が勤務を終了する日のことを指します。この日は、通常、就業規則で定められています。ここで注意すべきなのは、「定年退職日」は「定年年齢に達した日」だけでなく、「定年年齢に達した日の属する月の末日」や「定年年齢に達した日の属する月の給与締日」、「定年年齢に達した日以降最初に到来する3月31日」等を選択できるということです。

■法定定年年齢の推移と現状

定年60歳は、かなり以前から定着しているようなイメージがありますが、実はまだ最近のことです。ここでは、社会の変化に伴う法定定年年齢、高齢者雇用政策の推移と現状を見ていきましょう。

法定定年年齢の変遷

日本では、労働者の年齢による雇用の終了を制度化した「定年制度」があります。
この法定定年年齢は昭和初期以降「55歳」とされていました。「60歳」へと引き上げられたのは、1986年のことです。当時は団塊の世代の方たちがちょうど40歳手前の働き盛りを迎える頃、将来に備えての措置でした。まずは1986年に努力義務とされ、60歳定年が義務化されたのは1998年のことです。意外に最近だなという印象を受けます。

現行の法定定年年齢とは?

現在の法定定年年齢は「60歳」と定められています。ただし、高齢者雇用安定法により、65歳まで、①定年年齢を引き上げ、②希望者全員を65歳まで継続雇用、③定年制の廃止のいずれかで雇用を確保することが義務付けられています。

また、2021年4月からは同じ高齢者雇用安定法による70歳までの就業確保措置が努力義務とされました。70歳まで雇用する方法の他に、業務委託契約を締結するなどの方法も可能とされています。

■企業実態:定年は何歳にしているのか?

企業の定年設定年齢は、その企業の人事戦略や労働環境に大きく影響します。そのため、他社の定年設定年齢を知ることは、自社の人事政策を考えるうえで非常に有益です。

企業ごとの定年年齢の実態

令和4年就労条件総合調査(厚生労働省)によると、企業による定年制度の割合は下記となっています。

   □定年を定めている … 94.4%
   □定年を定めていない … 5.6%


定年を廃止している企業はまだまだ少数派のようです。

では、定年を定めている企業では、定年年齢をどう定めているのでしょうか?

   □60歳 … 72.3%
   □61歳 …  0.3%
   □62歳 …  0.7%
   □63歳 …  1.5%
   □64歳 …  0.1%
   □65歳 …  21.1%
   □66歳以上 … 3.5%
  (65歳以上:24.6%)


分布を見ていると、まだ大半は60歳。しかし、最近では、働き手不足や健康寿命の延伸などの影響で、65歳を定年とする企業も増えています。

定年年齢の引き上げのメリット、デメリット

前述しましたように、定年を60歳としている企業は平成17年の91.1%から令和4年では72.3%に減少する一方、定年を65歳以上に設定している企業は、平成17年の6.2%から令和4年では24.6%と、20年足らずの間に、定年年齢の延伸が進んでいます。

これは、厚生労働省の政策にも多きく影響しているように思います。
特に65歳超雇用推進助成金は、定年を引き上げることによって100万円以上の助成金を受け取ることも可能であるため、私のクライアント企業でも活用しています。

とはいえ、定年の引き上げや撤廃にはメリット、デメリットがあるので把握した上で取り組む必要があります。

以下、定年の引き上げや撤廃のメリット、デメリットを挙げます。

□定年の引き上げ、撤廃のメリット
 ・定年制によるモチベーション低下を招くことなくシニアを活用できる
 ・優秀人材をそのままのポストで活用できる
 ・60歳超えの求職者を正社員で迎えることができる

□定年の引き上げ、撤廃のデメリット
 ・延長する年数分、雇用リスクが増(働かないシニア、体力減退)
 ・賃金カーブを修正しなければ人件費増となる
 ・退職金支給が延長分遅くなる(60歳での受け取りも選択できるが…)。支給額も増

■定年年齢と定年退職日について

ここまで、定年年齢の社会的な動きや、定年年齢の設定(何歳にするか?)等を解説いたしました。ここからはもう少し細かな話になります。

定年年齢を満60歳に設定するにしても、定年退職日は大きく4通り考えられます。私の知る限りにおいては、あまり意識せず就業規則に定めているケースがほとんどなので、自社の就業規則をご確認いただければと思います。

定年年齢に達した日

1つ目は、定年年齢に達した日を定年退職日とするパターンです。定年年齢が60歳の場合社員が60歳に達した日がそのまま退職日となります。社員一人ひとりの誕生日が異なるため、管理が複雑になります。また、継続雇用制度で改めて雇用契約を締結する際、月の途中で契約内容が変更となります。

定年年齢に達した日の属する月の末日

2つ目は、定年年齢に達した日の属する月の末日を退職日とするパターンです。これにより、一か月単位で退職者をまとめることが可能になり、管理がしやすくなるでしょう。半面、給与の締日を月末以外に設定している場合、支給期間の途中で契約内容が変更になると、給与に日割り計算が発生します。

定年年齢に達した日の属する月の給与締日

さらに、定年年齢に達した日の属する月の給与締日を定年退職日とすることも可能です。この場合、給与計算のタイミングに合わせて退職が行われますので、契約内容が変更となった際も給与計算がスムーズにできます。

私のクライアント先では、このパターンが最も多いです。

定年年齢に達した日以降最初に到来する3月31日

定年年齢に達した日以降最初に到来する3月31日を定年退職日とすることもあります。これは企業の年度末と合わせて退職を行うための方法で、人事計画を立てやすいです。
また、新卒として同時に4月1日に入社しても、誕生日によって定年退職が異なるという不公平感もありません。

定年が満60歳とする場合も、定年退職日はこれら4通りの定め方があります。自社の考えに基づいて、規定することが重要です。

■「満60歳に達した日」vs「満60歳の誕生日」の違い

更に細かな話をさせていただきます。満60歳に達した日」vs「60歳の誕生日」の違いです。
「そんな細かなこと、どうでもいいやん」とスルーしたくなる話題かもしれません。ですが、実際に労働トラブルに発展しそうになった例があるくらいに、とても重要な内容になるので中小企業の社長、経営者の方にはしっかりと理解していただきたいと思います。

「満60歳に達した日」の定義と影響

「満60歳に達した日」と言えば、60歳の誕生日を指すというのが一般的な認識ではないでしょうか?ところが、民法の年齢計算の定めによると、誕生日の前日が60歳になった日となります。
私自身、子供の頃に高校野球を見ていて、4月1日生まれの選手が、早生まれとして1年早い学年になっていることに驚きを覚えました。有名なところでは、巨人のコーチをされている桑田真澄さんがそうでした。

「60歳の誕生日」の定義と影響

一方、60歳の誕生日はそのままの意味です。先ほどの定年退職日4つのパターンでも、全て「定年退職に達した日」として解説をさせていただきました。厚生労働省のモデル就業規則も「満○歳に達した日」の記載方法なので、この後の解説を読んでいただいた上で、「満○歳の誕生日」の方がわかりやすいと感じられたら、変更を考えていただいても良いかと思います。

定年と賞与:12月1日生まれ Aさんの場合

「満60歳に達した日」と「満60歳に達した日」では、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?
ある中小企業の従業員Aさんの場合で考えてみましょう。Aさんは12月1日生まれで、2年前に60歳の定年を迎えました。

その会社の就業規則に、定年退職日は「満60歳に達した日の属する月の末日」との定めがありました。
Aさんは自身の定年退職日を12月末日と思っていたのですが、会社からは11月30日が定年退職日との説明を受けました。

実はこの1か月が大きな違い。
12月は賞与の支給月ですが、支給日に正社員として在籍していることが条件。Aさんは12月の賞与支給日には嘱託社員となっていたので正社員ではありません。Aさんはキャリア的にも100万円を超える賞与があったので、ほんのちょっとした言葉の違いによって、100万円を受け取ることができませんでした。

幸いにもAさんは温厚な方で、「65歳まで働けるのだから仕方ないか」という考えだったのでそれ以上の話にはなりませんでした。でも、人によっては労働トラブルに発展する可能性が充分にあります。このケースだと会社の言い分が通るとは思いますが、後味が悪いですよね。

この他にも、月末や給与締日によって、定年退職日が1か月早くなると、退職金の金額が1か月分低くなるという影響があります。

勘違いを回避するのであれば「満○歳の誕生日」と規定するのが無難だと思います。

■まとめ

定年年齢と定年退職日の設定は、中小企業の社長、経営者にとって非常に重要な問題です。この二つの理解は、企業経営だけでなく、従業員一人ひとりの生活設計にも大きく影響きます。混乱を避け、適切な人事管理を行うためにも、これらの概念を正しく理解し適用することが求められます。
改めて、自社の定年の規定をご確認いただき、再検討していただく機会になれば幸いです。

当社労士事務所は大阪、堺市、を中心に様々な企業の問題に取り組んでおります。

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