NEWS お知らせ

休日が足りない?変形労働時間制での休日設定法を社労士が徹底解説

中小企業の経営者や人事担当者と接する中で、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用している企業では、毎月の勤務表作成時に土日や祝日の勤務が連続していることや、週に2日の休日が設定できない状況に直面することがあります。これにより、「休日が少なくない?」と感じることや、従業員からの指摘を受けることが少なくありません。

この記事では、1ヶ月単位の変形労働時間制において法的に必要な最低休日数と、今後の人材確保と定着を目的とした休日の設定について、二つの視点から掘り下げていきます。

1.1ヶ月単位の変形労働時間制の法的要件と休日の設定

1ヶ月単位の変形労働時間制において休日を設定する際、押さえておくべき重要なポイントは、労働基準法で定められた休日数と法定労働時間の基準です。これらは、従業員の健康保護と労働の適正管理を目的として設けられています。

労働基準法では、全ての従業員に対して最低でも毎週1日の休日、または4週間にわたって4日以上の休日を提供することが求められています。また、1日の労働時間は8時間、週の総労働時間は40時間と定められており、特例として許可されている事業場(※)では44時間までとなっています。

※特例措置対象事業場
常時使⽤する労働者数が10人未満の商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業


1ヶ月単位の変形労働時間制を導入する場合、各月の暦日数と自社の所定労働時間を元に、その月に必要な休日数を算出し、全体の労働時間が法定の上限を超えないよう調整します。

労働基準法が定める休日のルールとは?

変形労働時間制を理解する前に、まずは労働基準法が定める休日の基本的なルールについてお話ししましょう。労働基準法では、従業員に対して毎週少なくとも1日、または4週間で4日以上の休日を確保することが義務付けられています。年間では52日の休日があれば、労働基準法で定められている休日の日数をクリアしていることになります。

■労働基準法における休日の定義とその計算方法

ただし、そこには法定労働時間との兼ね合いがあります。労働基準法では、1日の労働時間が8時間、週の労働時間が40時間(特例措置対象事業場※は44時間)を超えないように定められています。休日を週に1日とした場合、週の労働時間を40時間に収めるためには、1日の労働時間を短く設定する必要があります。

多くの企業が週休2日制を採用しているのは、1日7~8時間の所定労働時間で週40時間を守るためです。

※特例措置対象事業場
常時使⽤する労働者数が10人未満の商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業


■1日5時間、6時間の短時間勤務と休日の設定

企業が所定労働時間を1日6時間と設定した場合、週6日勤務しても総労働時間は36時間に留まり、法定の40時間を超えることはありません。このように労働時間を調整することで、週に1日の休日を設けることが可能となり、法律に則った運用が実現できます。

一方、所定労働時間をさらに短く1日5時間と設定した場合でも、週7日勤務しても合計で35時間となり、依然として40時間の法定労働時間内に収まります。ただし、労働基準法は週に少なくとも1日の休日を必須としているため、いかなる場合でも週1日の休日は確保する必要があります。

1ヶ月単位の変形労働時間制とは?

1ヶ月単位の変形労働時間制は、月間の総労働時間が法定労働時間の上限内に収まるように、日々や週ごとの労働時間を柔軟に調整できる制度です。この制度を利用することで、企業は繁忙期と閑散期の労働需要の変動に柔軟に対応できるようになります。例えば、小売店や飲食店、美容室、介護福祉施設など、シフト制でスタッフの配置を調整する必要がある業種では特に有効です。

例えば、ある週に土日を含む連休で休業すると、その週の労働時間が48時間になってしまう場合があります。通常の1日8時間、週40時間の労働枠では対応が難しいこのような状況でも、1か月単位で労働時間を調整することで、1週間あたり平均40時間以内に収めることが可能です。

■1か月単位の変形労働時間制:月の労働時間上限(法定労働時間)

1か月単位の変形労働時間制での上限となる労働時間は(法定労働時間)は、以下の計算式によって求められます。


上限時間=1週間の労働時間40時間×月の暦日÷7日
・暦日数が28日の月: 160時間(28日÷7日×40時間)
・暦日数が29日の月: 165.7時間(29日÷7日×40時間)
・暦日数が30日の月: 171.4時間(30日÷7日×40時間)
・暦日数が31日の月: 177.1時間(31日÷7日×40時間)

特例措置対象事業場は、44時間で計算します。
上限時間は上の表をご参照ください。

この制度の導入には、月の総労働時間が法定の上限を超えないように注意深く管理する必要があります。また、就業規則の見直しまたは労使協定の締結が必要になりますので、専門家のアドバイスを受けながら進めることをお勧めします。

法的要件を満たすための最低休日数

では、1か月単位の変形労働時間制において、どの程度の休日があれば法的要件を満たすと言えるのでしょうか?

1日の所定労働時間が固定されている場合、月の上限時間を1日の所定労働時間で割ることで、その月に許容される最大の労働日数を算出することができます。

【労働時間と必要休日数の計算例】
例として、所定労働時間が8時間の場合、30日間の月では次のように計算します。

・月間の労働時間上限:171.4時間
・1日の所定労働時間:8時間

これにより、労働時間の上限を所定労働時間で割ると、171.4÷8=約21.4日
171.4÷8=約21.4日
この計算結果は、1か月間に最大で21日間働けることを意味し、少なくとも9日間の休日が必要となります。

■所定労働時間別の必要休日数
上の表は、所定労働時間が8時間、7時間30分、7時間の場合の必要休日数をまとめた表です:

週休2日制が一般的であるため、休日が1日の週があると「休日少ない?」と思うことがあるかもしれませんが、上記の休日があれば法的には問題無いと言えます。

ただし、就業規則で休日が週2日であると定められている場合などは、就業規則が優先されるので注意が必要です。

2.人材の定着と従業員の定着:年間休日は何日必要?

休日の設定は、単に労働基準法を満たすだけではなく、人材の確保と定着の観点からも非常に重要です。労働者が心身ともに健康で、仕事とプライベートのバランスを保てる環境を提供することは、企業の持続可能な成長に直結します。このセクションでは、日本の他の企業における年間休日数のデータを見ながら、私が中小企業の求人サポートを行う中での経験を踏まえ、適切な休日数の設定について考察します。

企業が提供する休日数は、求職者の企業選びにおいて重要な判断基準の一つです。特に中小企業では、リソースの制約から休日数が少なくなりがちですが、適切な休日の確保は従業員のモチベーション維持や生産性の向上、さらには離職率の低下に直結するため、戦略的な休日管理が求められます。また、私のサポート経験からも、休日数が多い企業ほど応募者の関心が高く、質の高い人材の確保が容易であることが確認されています。

これからの企業経営において、法的要件を遵守することは基本ですが、それを超えて労働者の福祉を重視した休日の管理を行うことが、企業ブランドの強化と人材確保の成功への鍵となります。

日本における年間休日数の実態とデータ

日本の労働環境において、年間休日数は国際的に見ても特に注目されるポイントです。厚生労働省の令和5年就労条件総合調査(結果の概況)によると、日本の平均的な年間休日数は約115.6日です。

これは、週休2日制が一般的な企業が多いことを反映していますが、業種や企業によって大きなばらつきがあります。特にサービス業や医療関連業界では、休日数が少ない傾向にあり、従業員のワークライフバランスに影響を与えています。

休日数が従業員の満足度と生産性に与える効果

休日数は、従業員の職場満足度に直結します。適切な休日数は従業員のストレス軽減、健康の維持、そして仕事への意欲向上に寄与し、結果的に企業の生産性向上にもつながります。特にここ10年で採用市場が大きく変化し、求職者がより多くの選択肢を持つようになりました。これにより、求職者が優位な立場を得ており、仕事を選ぶ際に休日数を重視する傾向が強まっています。

逆に、休日が不足している状況は、労働者の疲労累積、メンタルヘルスの問題、そして高い離職率を引き起こす可能性があります。実際に、入社時には条件に満足していても、働き始めてからプライベートの状況が変わることや、より条件の良い他の企業に目が向くことは珍しくありません。そのため、企業は休日数の適正管理を通じて、従業員の満足度を高めることが求められます。

現代の労働環境では、休日が多く、仕事とプライベートのバランスが取れた職場は、優秀な人材を引きつける上で非常に有利です。休日数を増やすことは、短期的にはコストが増加するかもしれませんが、長期的には従業員のモチベーション維持、健康促進、そして組織全体の生産性向上につながるため、賢明な投資と言えます。

したがって、企業は休日数を戦略的に設定し、従業員が持続可能なキャリアを築ける環境を整えることで、人材の確保と定着を図り、企業文化の強化を目指すべきです。これにより、採用市場での競争力を保ち、企業の持続的な成長を支えることができます。

人材の採用と定着を図る上で、理想的な年間休日は?

理想的な休日設定は、優秀な人材の確保と定着において重要な役割を果たします。人材市場の競争が激化する中で、多くの休日を提供する企業は求職者にとって魅力的な選択肢となり、採用活動において大きなアドバンテージを享受できます。また、週休2日以上を保証することで、従業員はプライベートと仕事のバランスを取りやすくなり、これが長期的なキャリア形成と組織への忠誠心向上につながります。戦略的な休日設定により、企業は人材流出を防ぎ、安定した労働力を維持することが可能です。

■日本の年間休日数の現状とその影響
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査によると、日本の平均年間休日数は115.6日です。

その内訳は、120~129日が32.4%で最も多く、次いで100~109日が31.4%、110~119日が21.1%と続きます。130日以上の休日を持つのは1.7%に過ぎませんが、全体の86.6%が年間100日以上の休日を有しています。

私が中小企業の求人をサポートする中で言えるのは、休日数と応募数の関連性は明らかです。年間休日が120日以上であれば一般的に魅力的とされ、125日以上では非常に魅力的と感じられることが多いです。逆に、110日を下回ると休日が少ないと捉えられ、100日以下では他の条件が非常に良い場合を除き、応募が厳しくなる傾向があります。

■企業が目指すべき休日数
週休2日を基本とし、年間の祝日16日を加えると120日の休日となります。ここに年末年始や夏期休暇を加えると、年間で125日以上の休日が確保できるため、非常に魅力的な求人となり得ます。

この水準を設定することで、応募者の反応が大きく向上し、優秀な人材を惹きつけることが可能になります。

これらのデータを踏まえ、企業は休日数を戦略的に設定し、応募者にとって魅力的な労働条件を提供することが重要です。適切な休日の確保は、単なる法的義務を超え、企業のブランド価値を高め、持続可能な成長を支える基盤となります。

中小企業にとっては厳しい条件かもしれませんが、今後の事業展開において人材の確保と定着が不可欠である場合、これを目標として設定することをお勧めします。

まとめ

適切な休日数の設定は、法的要件を満たすだけでなく、人材の確保と定着にも極めて重要です。企業は労働基準法に則った休日数を確保することで法的な問題を回避し、さらに、十分な休日を提供することで従業員の満足度を高め、優秀な人材を引きつけることができます。中小企業においては、これが難しい場合もありますが、長期的な事業成功と持続的な成長に向けて、戦略的な休日設定を目標にすることが推奨されます。

【関連記事はこちらから】

1ヶ月単位の変形労働時間制をわかりやすく解説:中小企業が押さえるべきポイント

変形労働時間制デメリットしかない?その誤解を解き明かす経営者の手引き

お知らせ一覧に戻る

CONTACT
お問い合わせ

採用・定着・人事労務など
お気軽にご相談ください

※個人の方からのお問い合わせは
 受付しておりません。ご了承下さい。