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運送業の経営者必見!給料の完全歩合制が御社を未払い残業代のリスクから救う

未払い残業を従業員から請求される、実にその半数以上が運送業でしかも高額となるのが特徴。今回は、御社をそのリスクから救う秘策とも言える完全歩合制について解説します。完全歩合制は違法?と思われている方も多いのですが、れっきとした給与の支払い方法。正しく理解し使えば経営者にとって強力な武器になります

■未払い残業代問題の半数以上が運送業

前回のブログ『会社経営者必見!残業代のよくある間違いを3つ紹介します!!』では未払い残業の問題を取り上げました。
 
今回、運送業をテーマにしたのは、運送業こそ未払い残業代請求が最も多い業界だからです。
企業法務を主に取り扱っている弁護士数人から聞いた話ですが、いずれも取り扱っている未払い残業問題の半数以上が運送業に集中しているそうです。

なぜ運送業にこの問題が多のは、次の2つの理由だと考えています。
①労働時間が長くなりやすい
②労働時間の客観的な証拠が残りやすい
平たく言いますと「楽して多くのお金が取れる」ということです。

前回の記事がわからない場合はこちらからどうぞ

会社経営者必見!残業代のよくある間違いを3つ紹介します!!

■社労士が憂慮する、運送業での残業代対策の問題点

運送業の残業代対策として、次の2つの方法を採っておられる会社がが多いようです。

固定残業制にする

1つめの対策は、固定残業制にするという方法です。
例えば、所定労働時間が月間160時間の会社で、固定給が300,000円の場合、
・基本給 240,000円
・固定残業代 60,000円(32時間の残業代)
のように固定給の一部を残業代として支払う方法です。
この方法を採ることにより、給与のボリューム感を保ちながら、残業代を抑えることができます。

一方で、この方法には主に2つの問題点があります。

●問題点1 追加の残業代が大きい
固定残業制を採った場合であっても、設定された時間分(この場合32時間)を超えると、別途残業代が必要になります。
運送業界の多くは、月間残業時間が80時間を超えているケースがほとんどなので、固定残業制を採ったとしても、残業代が大きくなってしまいます。

先ほどの例では、実際の残業が80時間だとすると、48時間分の残業代がかかることになります。
1時間あたりの残業代は、1875円(24万円÷160時間×1.25)なので、追加の残業代は
90,000円(中小企業の場合)。固定給の300,000円と合わせると、390,000円となります。

固定残業制を採らずに固定給を300,000円支払うケースよりも抑えることができるのですが、かなりの負担になることは間違いありません。

●問題点2 ドライバーには歩合給が必要
2つ目の問題点は、ドライバーは“ほぼ1人で“かつ“運んでナンボ“の性質がありますので、本来は歩合給と相性が良い仕事です。というよりも歩合給無しでは困難です。
ところが、固定給と残業代で390,000円(前述の例)を支払い、更に歩合給となると無理があります。
そこで、2つ目の歩合給を残業代として支払う方法を採る会社が多いです。

歩合給を残業代として支払う

この方法を簡単に説明しますと、
ドライバーの運賃収入をもとに算出される、いわゆる歩合給を『運行時間外手当』等の名目で、割増残業代として支払う方法です。
一方で、いわゆる歩合給『運行時間外手当』の額が、本来の割増残業代に届かなかった場合は、差額を残業代として支払います。
実際に、シンワ運輸東京事件(東京高裁平成30年5月9日判決)でこの方法が有効とされています。
ただし、この方法も今後は無効となる可能性が大きいと考えています。
その理由は、シンワ運輸東京事件類似するタクシー会社の賃金体系について争われた国際自動車事件(最高裁令和2年3月30日判決)です。

■大きく流れが変わった国際自動車事件

国際自動車事件を簡単に説明すると、以下のように賃金体系を変更することにより争われたものです。(実際にはもっと複雑なのですが、ごくシンプルに説明しています。詳しい方が見られるとツッコミどころ満載かと思いますがご容赦下さい。)

●旧賃金体系
 総支給額=固定給+旧歩合給+残業代

この旧歩合給から残業代を引いたものを新歩合給とし、以下の賃金体系としました。

●新賃金体系
 総支給額=固定給+新歩合給(旧歩合給-残業代)+残業代

要は、残業代を支払う代わりに、その分歩合給から引きますよ、としたものです。
前述の『歩合給として残業代を支払う』と極めて類似しています。

この国際自動車事件では、一旦東京高裁(平成30年2月15日)では会社側が勝訴しながらも、最高裁で判決が覆され、残業代を支払っているとは認められないとされています。

先ほどのシンワ運輸東京事件判決のタイミングは、国際自動車事件の東京高裁後ということで、その影響をうけて有効とされた可能性があります。

その後の最高裁で残業代をして認められないと判決された以上は、今後『歩合給として残業代を支払う』も認められない可能性が高いと考えられます。

そこで、ご提案したいのが完全歩合給です。
法的には出来高払いというのですが、注意点をしっかりと押さえて運用すればメリットの大きい方法です。

■社労士が解説、完全歩合給制にするメリット

完全歩合給は、運送業界の経営者にもドライバーにもメリットの大きい方法です。
主なメリットとして、次の3点について述べさせていただきます。

従業員のモチベーションアップにつながる

運送業のドライバーは、『ほぼ1人』で『運んでナンボ』の仕事をしています。
そういう意味では、歩合給が相応しい仕事であり、モチベーションアップにもつながります。

同一労働同一賃金にマッチ

2021年4月から中小企業にも『同一労働同一賃金』が適用となりました。
正社員と契約社員、現役社員と定年再雇用社員との間に、同じ仕事をしている以上は不合理な待遇差を設けることができなくなりました。

一方で、年齢を共に生産性が低下しやすい仕事でもありますので、現役社員と定年再雇用社員と同じ待遇にするのも疑問が残るところです。
完全歩合給にすることで、この問題も解決するのではないでしょうか。

残業代を低く抑えることができる

あまり知られていないのですが、歩合給にも残業代がかかります。
ただ、残業代の計算方法が次の点で全く異なります。

①歩合給の時間単価は、所定労働時間でなく残業時間も含めた総労働時間で算出する。
②残業時間に応じた割増賃金だけが対象となる。
要は、残業代はかかりますが、大幅に抑えることができます。

次の例で計算してみましょう。

■所定労働時間160時間 残業80時間(総労働時間240時間)
①基本給 24万円の場合の残業代 
残業代 15万円(残業単価1,875円×80時間)
・残業単価 1,875円(24万円÷160時間×1.25)
総支給額 39万円

②歩合給 24万円の場合の残業代
残業代 2万円(残業単価250円×80時間)
 ・残業単価 250円(24万円÷240時間×0.25)
 総支給額 26万円

これを見れば一目瞭然です。完全歩合給にすることで、残業代の心配をする必要がほぼなくなります。その分、歩合の計算を工夫して頑張った社員に報いる形にすることができます。

一方で、完全歩合給にするには次ことに注意する必要があります。

■社労士が解説、完全歩合制の注意点

運送業界における経営者、ドライバー共にメリットの大きい完全歩合給制ですが、注意点もあります。

保障給が必要

1つ目は、完全歩合給にするには保障給が必要です。
売上がゼロだから給料もゼロというわけにはいきません。

保障給として、労働した時間に対して平均賃金の60%以上が必要になります。
それと共に、最低賃金を下回らない様にすることにも注意しなければなりません。

逆に言うと、それさえクリアしていれば問題無く完全歩合給を運用できることになります。

社員の個別同意が必要

新規でこれからスタートする会社は保障給さえクリアしていれば問題無いのですが、現賃金体系から改訂する場合は『労働条件の不利益変更』の問題もクリアしなければなりません。
(歩合給がどうかではなく、賃金体系を変更する場合は全てに該当するのですが…)

賃金体系を変更することで、増収になる社員もいれば、減収になる社員もいるからです。
社員の個別同意を取った上で導入したいところです。

現賃金体系から新賃金体系に移行することで、賃金がどのように変わるのか。
社員1人1人シミュレーションし、減収となる社員に対しては何らかの手を打つことで同意を得ることができるようにします。

■まとめ

今回は完全歩合制を取り上げましたが、運送業の実態を考えると充分検討に値するのではないかと思います。というよりも、運送業の賃金としては完全歩合給制しか無いようにも思います。
反面、事例が少ないことや保障給の設定等、押さえるべきポイントもあり、導入に当たっては弁護士や社労士等の専門家に相談されることをおすすめします。


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